錆に強く、綺麗な状態を保てる金属として重宝されるステンレスは、加工性や耐熱性、耐食性などに優れているという特性があります。
さらに、メンテナンスも手軽で低価格であり使い勝手もいいため、キッチンのシンクや調理器具などの水まわりにも多用されています。
そんな万能なステンレスの唯一の難点は、溶接が難しいということです。
ここでは、ステンレスの溶接が難しい理由や溶接の種類、溶接方法について解説していきます。
目次
ステンレスは、クロムもしくはクロムとニッケルが含まれる錆に強い合金鋼です。
鉄などの金属よりも加工性に優れていることからさまざまな機器や製品に使われるステンレスですが、加工性が高いのになぜ溶接が難しいのか、その理由を紹介します。
ステンレスには以下のようなさまざまな種類があり、添加される物質によって特性が異なります。
これらのステンレスにはそれぞれ違う特性があり、たとえば熱に強いものもあれば、引っ張りに弱いものもあるので、特性に適した溶接を行わなければ加工できません。
金属は高い強度を持っていますが、ステンレスは他の金属より強度が低いため、高熱や圧を用いて金属同士をつなぐ溶接は高い技術が必要となるのです。
ステンレスには、一定の力を加えると硬くなる「加工硬化」という特性があります。
少しの力を加えるだけであれば硬化はしません。
しかし、圧接法を用いるスポット溶接のように強い力を加えると硬化が起こるので、元に戻すことができなくなってしまいます。
そのため、圧力によって溶接を行う方法では加工できないことも、ステンレスの溶接が難しいといわれる理由です。
圧力による溶接ができないのであれば、熱を使えばいいと思うかもしれません。
確かに、ステンレスの溶接では熱を使うのですが、加工後に急激に冷えると割れてしまうリスクがあります。
ステンレスはマルテンサイト化(※)を起こす性質があります。
マルテンサイトとは「オーステナイト組織を急冷した時にできる組織で硬くて脆い組織」のことで、「硬くて脆い組織」に変性することを、マルテンサイト化といいます。
マルテンサイト化はステンレスだけに起こることではありませんが、他の金属よりも薄く強度が低いため溶接では割れるリスクが高くなるのです。
つまり、加工時の技術だけでなく溶接後の熱処理の技術も必要になるため、ステンレスの溶接は難しいのです。
ステンレスの溶接は種類の特性に適した方法で行う必要があります。そのため、溶接にも種類があるのでチェックしておきましょう。
被覆アーク溶接は、金属の心線に被覆剤となる「フラックス」を塗り固めた溶接棒を使い、アーク放電を発生させる溶接方法です。
アーク放電による高温で金属に溶融池が作られ、さらに溶接棒の心線が溶け出して母材と融合することで溶接できます。
ティグ溶接は、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガスによってアーク放電を発生させることで高熱を作りだし、母材を溶かして溶接する方法です。
ティグ溶接でも溶接棒などの溶加材を使いますが、溶接する箇所を不活性ガスで覆っているので、スパッタ(火花)はほとんど出ず安全に作業できます。
炭酸ガスアーク溶接とは、シールドガスに二酸化炭素を使用しアーク放電を発生させる溶接方法で、CO2溶接とも呼ばれています。
溶け込みが深く、溶接スピードも速いというのが特徴で、さらに二酸化炭素が安価なのでコストパフォーマンスにも優れています。
電子ビーム溶接は、母材を電子ビームの運動エネルギーによって加熱する方法で、溶融して凝固させるビーム溶接の一種になります。
電子ビームはエネルギーの密度が高く、融解した金属を蒸発させることができるので、金属表面に「キーホール」という凹みができます。
この凹みをもっとも深くできるのが電子ビーム溶接です。
レーザー溶接とは、約Φ1.0mm以下のサイズまでレーザーを集光し、レーザーの熱によって金属を溶融して接合する溶接法です。
非接触で接合できるので金属の変形が少なく、短時間で作業ができることから、熱によるひずみが起きづらいのが特徴です。
ステンレスを溶接することは可能ですが、機械を使えば誰でもできるというわけではありません。
ステンレスの特性をしっかり理解し、熟練した技術を持っている職人でなければ、たとえ溶接できたとしても満足した仕上がりにはならないでしょう。
ステンレスの加工は、技術によって結果に大きな差が出るので、加工を依頼する際には長年の実績があり信頼されている会社を選ぶことをおすすめします。